わからない

その一つの死は天にとどいて行ったのだろうか。わからない、わからない、それも僕にはわからないのだ。僕にはっきりわかるのは、僕がその一つの嘆きにつらぬかれていたことだけだ。そして僕は生き残った。お前は僕の声をきくか。

原民喜『鎮魂歌』

ことばの可能性を信じたモーパッサンとは対照的に、原民喜はことばの限界を自覚しながら現実と向き合った。


「感動を書き表すことはできないが、感動の中で書くことはできる」というような意味のことを、『言語表現法講義』の中で加藤典洋先生が言っていたように覚えている。

わからないものを適当な言葉で表し蓋をしてしまう前に、
わからないままに、そのわからない状態の中で生まれ出てくる言葉や何かを大事にする。
チリを核として、周辺に水滴が付き、浮遊し湯気となって目にみえるように、
わからない状態を大切に、周辺に水滴の付く核としていきたい。

今日の猫