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漂流する文字/書き文字の残留思念

「エクリチュール」は、文字、あるいは書き言葉を意味するフランス語である。

『広辞苑第六版』には以下のようにある。
①書くこと②書き方。書体。文体。③書かれたもの。文字。文書。


ジャック・デリダは著書『署名、出来事、コンテクスト』の中で、エクリチュールを「漂流物」や「痕跡」、あるいは「幽霊」や「郵便」などの隠喩によって説明している。

文字を「漂流物」と表現するのは面白い。
例えば今村の「今」は僕の氏名の一部だが、時の表現や、「その上に」という副詞的用途であったり、地名など、様々な状況で使われる。
このように複数の文脈を横断すること、あるコンテクストから解離し漂い、違う文脈に収まったりすることは、簡単に言えば「一つの漢字でいろいろな単語が作れるね。」ということなのだが、
この現象を「漂流」と再解釈してみると景色が広がる。

書き文字ではまた様子が違ってくるように思う。
シンプルな情報としての文字と違い、そこに筆跡(書き癖や筆圧)というような記名性がある。
「今ひまー?」の今と、何度も頭を下げながら「今一度、考え直していただけませんか」の今では、字形も変わってくるのではないか。そこには残留思念のようなものがまとわりつき、文字単位で切り取ったとて、文脈を横断して違う文脈におさまることは大変難しいのではと思う。

至極当たり前のことを言っているとは思うが、このような粒度で言い換えや例示、再解釈を行う行為が、自分にとってはアイデアの種になる。


今日の猫